CANTUS ANIMAE(以下CA)は2017年7月に設立から20年目のシーズンを迎えます。
設立当時は、アニメソングを歌う合唱団と勘違いもされていたようですが、20年に亘る活動実績が、合唱団の「個性」を作り上げてきたようです。
私は、合唱団が継続的に成長していくためには、「個性」が最も重要であると考えています。「ここでしか出来ないものがある」。個性について一言で言うなら、そういうことだと思っています。
そもそもCAは稀有な経緯で設立されました。
1998年5月に仙台で開催されたコーラスワークショップ(全日本合唱連盟主催)に於いて、私の講座を受講された女性数名が「雨森先生と音楽をするために合唱団を創りたい」と、彼女たちの知人に声を掛け、2か月後の7月に発足したのがCAです(勢いだけはありました!!)。スタート時は名前がなく「雨森合唱団(仮称)」という名前で練習場所を取っていたようですが、その後、私の思いを汲んで、一言で合唱団の目指す音楽を象徴する名前として、CANTUS(歌)ANIMAE(魂の)――「魂の歌」と名付けられました。ラテン語表記になったのは、世界へ発信していく音楽ができる合唱団になりたいという思いからです。
では、どんな音楽を目指す合唱団になればよいのでしょう?!
東京には、優れた指揮者がたくさんおられ、個性的な活動をしている合唱団がいくつもあります。そうした環境の中で、新たに「個性」を主張し、魅力的な音楽活動をしていくには、何をすればよいのでしょう?!
それをメンバー全員で共有するために執筆したのが、「CANTUS ANIMAEはどこへ行く」でした。当初23名でスタートしたCAも、今では50数名と人数は倍増しました。20年目のシーズンを迎えるにあたり、現状を分析し、さらなる成長と発展のためには何をしていくべきかを問い直し、この度「新・CANTUS ANIMAE はどこへ行く」を執筆した次第です。
さて、CAのこれからを考える時に重要なのは、何を踏襲し、何を新しい試みとして取り組んでいくのかだと思います。そこで、その二つに分けて、この文章を書いてみたいと思います。
INDEX
1.踏襲していくもの
(1)音楽や練習に対する姿勢
(2)より多くの作品に触れること
(3)コンクールへの参加
(4)MODOKIとのジョイント
2.新しい取り組み
(1)ユースとシニア
(2)忘れられた名曲の再演
(3)やり残している作品・リベンジ
(4)大曲への取り組み
(5)新しい演奏会スタイルの模索
(6)作曲家とタイアップした演奏会
1.踏襲していくもの
(1)音楽や練習に対する姿勢
これらは、創団時と何ら変わるものではありません。
(2)より多くの作品に触れること
広く浅く(より多くの作曲家・時代の)作品に触れていくことも継続していきたい思いの一つです。過去の演奏会のプログラムを検証したところ、約70人の作曲家の作品に取り組んできました。これからも出来るだけ多くの作品に触れるために8か月に1回演奏会をもつというスタイルは、是非継続したいものです。
とは言うものの、人生には限りがありますので、どこかに軸足を置くことも必要です。それについては、「新しい取り組み」の中で触れていきます。
(3)コンクールへの参加
より多くの作品に触れることの対極にあるのが「一つの作品に可能な限り深く取り組む」ということです。これも音楽をしていく上ではたいへん重要なことの一つです。コンクールはそういう取り組みをするには絶好の機会です。そして、コンクールに参加することで、CAの演奏会にはお越しいただけない方々にも演奏を聴いていただくことができます。作曲家の森田花央里さん、松本望さんとは、コンクールの場で出会いました。コンクールのあり方に賛否両論あるのは承知していますが、CAは、これからもコンクールをうまく利用していきたいと思います。
(4)MODOKIとのジョイント
MODOKIとの出会いも、コンクールがあればこそでした。そして、指揮者・歌い手がこれほどまでに思いを共有し、共振できる出会いは奇跡だったと言ってよいと思います。一つの合唱団の活動には限界があります。しかし、MODOKI+CAならば、1+1=2以上のことが出来ます(出来ました!)。
3回目のジョイントについては、新しい企画を山本啓之さんと相談中です。乞うご期待!!
2.新しい取り組み
さあ、ここからがいよいよ本題です。
これから何をしていくかが、CAの新しい個性となり、魅力となっていくはずです。それに賛同していただける方がいらっしゃれば、さらに仲間も増えていくことでしょう。
(1)ユースとシニア
合唱団としての地力をアップするためには、一人一人のスキルアップ(声の技術、音楽性、アンサンブル能力など)が必要なのは言うまでもありません。一方、CAの体質に目を向けてみると、創団時は、ほぼ同世代の人たちの集まりであったのが、今は、大学生から古希を迎えられるベテランまで幅広い年代構成となっています。これは、合唱団としては、たいへん喜ばしいことなのですが、新たな問題も浮上しています。
例えば一般論として、若者は体力もあり吸収力もあるものの、経験には乏しい。一方ベテランは、経験は豊富であるものの、若者のようなエネルギーや新しいものを吸収する能力では劣る(ベテランの方、ごめんなさい)というのは、仕方のないことだと思います。しかし、これは一律にアンサンブル感覚のトレーニングをするとか、新たなレパートリーを開拓するうえでは、うまくいかないことが多いのも事実です。
以上を踏まえて、今後CAの活動に以下のようなものを加えていきたいと考えています。
- CAユース(仮称)の活動
※ただし、年齢だけではなく、合唱経験も含めて考えます。
今、私の中で考えていることの一つは、アンサンブル能力のアップです。具体的にはCAユースで「春こん。」や宝塚に挑戦して、まず、アンサンブルとは何かを勉強してほしいのです。
思い返せば、CAの初ステージはTVEC(「春こん。」の前身)でした。第1回の演奏会は、オールルネサンス作品で構成することで、まず、アンサンブルとは何かを勉強しました。しかし、その時にいたメンバーは、今は数人しか残っていません。合唱団として積み上げてきているものがない、とも言えます。つまり、経験の少ない方々を中心に、原点へ戻ろうと言うことです。
しかし、これをCAの通常活動の枠外とはしたくありませんので、どう通常活動の中へ取り組み、ベテラン組も協力しながら進めていくのかは、今後十分にご相談していきたいと思っています。
- CAシニアの活動
※もちろん仮称。もっと前向きで魅力的な名称を考えます。
日本が今後さらなる高齢化社会となっていくと、セカンドライフに「生きがい」を見つけることは重要です。CAも創立メンバーが50~60代になった今こそ、その年代だからこそ出来ることを見つけていきたいと思います。
しかし。それは前向きでやりがいがあり、次世代へ何かを伝えていくようなこと、例えば、今、私は「20世紀の名曲を歌う会」という公募合唱団を岐阜で主宰していますが、この会の主旨は「昭和の名曲をリアルタイムで知っている人たちが、音楽で次世代へ伝えていくこと」を目的にしており、メンバーは80代から10代まで、演奏する曲目も、例えば、大中恩先生の「島よ」、「風のうた」、團伊玖磨の「筑後川」など、昭和に合唱を始めた世代ならリアルタイムで親しんだ作品を取り上げ、練習や本番を通して音楽で次世代へ伝えていこうという企画です。こういったことをCAでも取り組んではどうかと考えています。CAシニア組の企画として……。いずれにしても、高齢化していくメンバーがモチベーション高くCAを続けていける場を作っていくことは大切です。この部分に関しては、特に皆さんもアイデアをどんどん出してください。
(2)忘れられた名曲の再演
バッハのマタイでさえ、死後数十年間、メンデルスゾーンが再演するまでは、忘れられていました。同様に、名曲と言われる合唱作品でも、演奏機会が極めて減っている作品が多くあります。
例えば、一時は日本でもよく演奏されていたピツェッティの「レクイエム」や「三つの合唱曲」も、最近はあまり聴きません。邦人作品にしても、高田三郎先生の「イザヤの予言」、萩原英彦先生の「白い木馬」、「花さまざま」は、ほとんど演奏されません。そうした作品の再発掘を是非したいと考えています。
(3)やり残している作品・リベンジ
もう一方で、CAでやりたいと皆で言いながら、やり残している作品、取り組みはしたもののリベンジを誓っている作品にも是非取り組みたいと思っています。
例えば、マルタンの「ミサ」、プーランクの「人間の顔」、バーバーの「アーニュス・デイ」、ブラームスの「ドイツレクイエム」(CA単独ではやっていません)、モンテヴェルディの「アリアンナの嘆き」、「愛する女の墓に流す恋人の涙」、「聖母マリアの夕べの祈り」、三善晃先生の「五つの童画」、芥川也寸志の「お天道様・ネコ・プラタナス・ぼく」、ブルックナーの「モテット集」、松本望さんの「天使のいる構図」などなど、言い出したらきりがありません。
(4)大曲への取り組み
バッハのロ短調ミサの時のことを思い出してください。礒山先生の18時間に及ぶレクチャー、そして古楽の方々との本番……。企画から実現まで3年近くを要したように、簡単な企画ではありませんでしたが、アマチュア合唱団では極めて稀有な、かつ、有意義な取り組みでもありました。ただ単に大曲に挑むのではなく、その曲のもっている文化的背景や楽譜の読み込みなど、全員で勉強して、共有して、それを演奏に具現化していくような取り組みを、今後も企画していきたいと考えています。
(5)新しい演奏会スタイルの模索
合唱団の演奏会にお越しいただけるのは、合唱関係者、もしくは縁故知人がほとんどです。一方で、オーケストラの演奏会は、オケの関係者だけでなく、オケファンが多数存在します。なぜでしょう。
いちばんの理由は、合唱団の演奏会はつまらない、二つ目の理由は、合唱の楽しさをより幅広く知ってもらう努力をしていない、ということでしょうか。
こうした現状に一石を投じるような演奏会を企画したいと思います。コンセプトは、「新しい合唱ファンの開拓」です。具体的にはこれからアイデアを練っていきたいと思いますが、例えば、2014年12月にMedio Registroと共演した演奏会「聖母マリアのカンティクム」のような、器楽と合唱のコラボの発展版のようなものを考えたいと思います。あの時も、器楽の方々で合唱の魅力に気づいてくださった方がたくさんいらっしゃったようでしたので。
(6)作曲家とタイアップした演奏会
作曲家の個展的な演奏会はよく開催されていますが、一歩進めて、作曲家プロデュースによる個展的な演奏会も面白いと思っています。これは、(5)にもつながっていくと思います。
さて、「夢」は尽きませんが、人生には限りがあります。これらの「夢」のどれだけを実現できるのかわかりませんが、いずれにしても、一つ一つ誠実に向き合っていくほかありません。
CAはプロではありませんが、CAの皆さんは、プロ以上に高い志をもった方々の集まりだと思います。ルネサンスからバロック、古典、ロマン派、近現代、邦人作品に至るまで、すべてについて本物を志向(例えば音律一つ取っても、純正調、ミーントーン、6分の1、8分の1の中全音階から平均律に至るまで、作品にふさわしい音律で取り組んできました)し、様式についても、出来うる限りの勉強をしてきました。また、新作初演も、いくつも手掛けてきました。
こういった内容は、プロでもなかなか届かないものだと思います。これからも、志は常に高く、前向きにチャレンジしていきたいものです。そうした営みが、メンバーお一人お一人の人生を豊かにし、さらには、日本の合唱音楽の発展に少しでも寄与出来れば、それに勝る幸せはありません。
もちろん、これらに立ち向かうには、覚悟が必要ですし、茨の道が待っているとも言えます。しかし、「夢」のあるところには、人が集い、仲間が増え、そこにさらに大きな力が生まれて、そして、一つずつ「夢」がかなえられていくと信じて進んでいきたいものです。
音楽監督 雨森文也